感想:成功する人だけが知っている「一万円」の使い方

成功する人だけが知っている「一万円」の使い方
向谷匡史

格好いいとは、こういうことか。
10年も前に発行された本に私は唸ってしまった。
いや、年数は関係ないのだ。
ポルコ・ロッソの格好よさに変わりがないように。

例えば、上司がお祝いに5,000円の食事を奢ってくれたとしよう。
二人合わせれば1万円。
一般的に言えば、一人5,000円は十分に高い。
そうなれば上司を太っ腹だと思うだろう。
しかし、これが他に1万円、2万円とあって、実は5,000円が一番安かったとしたら、どうだろう。
途端に評価はケチったな、となるだろう。
1万円は、1万円であるのに、どうしてこの差が生まれてしまったのか。
それは、1万円の使い方を間違ってしまったためだ。

5,000円は3,000円より確かに高い。
店で一番高い食事が5,000円ならそれが『特上』となるわけだ。
しかし、5,000円は1万円よりは安い。
店で一番安い食事が5,000円ならそれは『特上』ではなく上中下の『下』になってしまう。
いや、してしまったのだ。

そうなれば折角使った、大金であるはずの1万円は、死に金となってしまう。
しかし、本書の中で出てくる人々は同じ1万円を死に金になどにせず、むしろ1万円以上の価値に変えてしまう。
そこには強かな計算があり、経験に裏打ちされた美学がある。
読み進める度に出てくるその粋人達に私は打ちのめされてしまう。

更に本書では逆に奢られる立場についても言及されている。
会計時には、せめて財布は出す、会計後にはお礼を言う、後で少額のお返しをする。
このくらいは誰でも知っているし、検索すれば容易に知ることが出来る。
しかし、食事中の対応はどうだろう。

本書の中に「飲食の席は四分六」という言葉がある。
奢る時は自分の存在感を対等の五分ではなく、四分しか出さず控え目にして、尊大になってはいけない。
奢られる時は逆に六分で場を盛り上げようとして、恐縮してばかりではいけない。
つまり多少なりともはしゃげ、というわけである。
こうすることで「奢ってやってるのに」と奢る側が後悔ないし、
「奢ってもらっているが」と奢られる側が居心地を悪くすることもないという。
無論、はしゃぎすぎてもいけない。
調子に乗って高いものばかり頼めばかわいくない、と次の機会も評価も失ってしまうからだ。

しかしこれ、知っている人は、あるいは無意識にでもしている人はどれ程いるだろうか。
そしてこれを実践している人は上司に可愛がられる存在だろう。
1万円の使われ方が上手いのだから。

この本はマナー本ではない。
人生の酸いも甘いも、良し悪しも、なんなら表も裏も知り尽くした著者による成功する人になるための指南書である。
かわいい後輩、いざという時に頼りになる先輩、気前の良い上客、尊敬する上司、薫陶豊富な先達。

憧れを手に出来るかはお金のほんの少しの使い方次第。
格好いいを身に纏いたい方は是非に読んでほしい本である。

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